福岡を拠点に料理教室を主宰する、旅する料理家・フードコーディネーター。
このエッセイでは、そんな私の日常と旅の記録を綴っています。
広告や雑誌の撮影現場、料理教室、旅先での食体験——
そのすべてが、私の礎となっています。
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参鶏湯が習える福岡料理教室
雨の気配が近づくと、キッチンに立ち、スープ鍋に手を伸ばす。
季節の変わり目は、どんなに気をつけていても、体の奥からふと冷える日がある。
そんなとき、不思議と食べたくなるのが、韓国の滋養スープ「参鶏湯」だ。
参鶏湯江原亭で出会った、夏のスープ 福岡料理教室で再現
韓国には何度も足を運んでいるけれど、はじめて参鶏湯を食べたのは、ソウルの「江原亭」という老舗だった。
あの店にも、もう何度行っただろう。
湯気でくもったガラス越しに、真っ白なスープの入った土鍋がずらりと並ぶ。
あつあつのスープに、やわらかく煮えた鶏肉、もち米、ナツメ、高麗人参──
いかにも冬の風邪予防かと思いきや、参鶏湯は実は「夏のための体づくりの食べ物」なんだと、あとから知った。
韓国では、もっとも暑さが厳しい三日間を「伏日(ポンナル)」と呼び、
その日に合わせて参鶏湯を食べる習慣がある。
いわば、韓国版・土用の丑の日のようなもの。
「暑いときに熱いものを食べて、汗をかいて体力を補う」──
そんな“以熱治熱”の考えが、今も暮らしの中に生きている。
参鶏湯に塩を加えるという、やさしい習慣 福岡の料理教室で
そしてもうひとつ、韓国のスープ文化で印象的だったのが「塩が入っていない」こと。
参鶏湯も、コムタンも、味はとても控えめで、テーブルに置かれた天日塩で自分好みに調えるのが一般的。
そのときの自分の体調に合ったミネラルを取り入れる、という食べ方の知恵。
良質な天日塩が採れる土地だからこそできることだと思う。
からだに寄り添う、わたしたちの参鶏湯
参鶏湯の魅力は、そのおいしさだけじゃない。
骨付きの鶏肉から丁寧にとったスープには、たんぱく質やアミノ酸、ミネラルがたっぷり溶け出していて、
ゆっくり、じわじわと身体の奥に沁みていく。
さらに具材として入るナツメは「気」と「血」を補ってくれる果実。
クコの実は、抗酸化作用や滋養強壮のほか、血行をよくしたりと、こちらも“巡り”を助けてくれる存在。
どちらも薬膳食材として知られているけれど、そもそもは自然の恵みの延長線上にあるもの。
昔の人は、効能うんぬんを語らずとも、自然とそういう食べ方をしていたのだと思う。
本場ではここに高麗人参が入るのだけれど、日本ではなかなか手に入れにくい。
でも、それなら無理に揃えようとしなくていい。
手に入るもので、私たちの参鶏湯を作ればいいのだ。
滋味深いスープに、もち米、にんにく、ショウガ──
そこにナツメやクコの実を加えたら、それだけで十分にやさしい力が宿る。
薬膳料理というよりは、「からだに寄り添うごはん」として。
その日の味を決めるのは、わたし
最初はほんのひとつまみだったはずなのに、
口の中に残る余韻や、身体の奥のほうで「もっとほしい」と囁く声に耳を澄ませるようにして、
もう少しだけ、もう少しだけと、静かに塩を加えていく。
それはまるで、その日そのときの自分の体と、対話しているような時間。
ちょうどいい塩加減は、誰かが決められるものじゃない。
日によって、体調によって、気分によって、ほしい味は少しずつ違ってくる。
家庭料理においていちばん大事なところはそこだと思う。
その日そのときの自分に合わせた、匙加減。
決まったレシピじゃなくて、「今日はこのくらいかな」と、体に聞きながらつくること。
うまく言葉にできなくても、
手が自然と動いて、調味料の瓶を少しだけ傾ける。
どんな味に仕上がるかは、その日の時間の流れとか、ちょっとした気分にも左右される。
そういう揺らぎがあるから、毎日の食事に飽きないのだ。
うまくできた日も、そうじゃない日も。
それでもまた、台所に立ってみようと思えるのは、
今日のわたしの声を、そっと聞いてあげられる場所だからかもしれない。
※福岡アトリエでの参鶏湯とミッパッチャンクラスの詳細はこちら
江原亭 店舗情報|アクセス・営業時間まとめ
🇰🇷江原亭店舗情報
住所:ソウル特別市 龍山区 元暁路89キル 13-10
電話番号:02-719-9978
営業時間:午前10:30~午後2:30
午後5:30~午後10:30
定休日:第1・第3・第5日曜日
アクセス:地下鉄1号線「南営(ナミョン)駅」から徒歩約5分