器って、どう選ぶ?|「料理の奥行きをつくる」私のスタイリング哲学

2025年5月23日 | エッセイ, 仕事のこと

福岡を拠点に料理教室を主宰する、旅する料理家・フードコーディネーター。

このエッセイでは、そんな私の日常と旅の記録を綴っています。
広告や雑誌の撮影現場、料理教室、旅先での食体験——

そのすべてが、私の礎となっています。

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福岡のフードコーディネーターがスタイリングする器

 

フードコーディネーターがスタイリングする器

「何に盛るかで、料理の表情って、こんなにも変わるんですね」
撮影の現場で、そんなふうに言われることがある。

料理にとって、器は“舞台”のようなもの。
主役を引き立てる存在でありながら、ときに料理そのものの印象を決定づけてしまうほどの力を持っている。

だから私は、器を選ぶとき、ほんの少し立ち止まる。


この料理にふさわしい「まなざし」がそこにあるか。
見た目だけじゃなく、気配や空気ごと伝えられる器かどうか。

 

器は、ただの入れ物じゃない。スタイリングはフードコーディネーターにお任せ。

仕事柄、私はかなりの数の器を持っている。
有田や美濃の作家もの、蚤の市で見つけたフランスの古いプレート、手の跡が残るような土もののボウル。
どれも、自分の中で何かしら“語る力”を感じた器たちだ。

旅先での器探しは、私にとって旅の大きな楽しみのひとつ。
例えば、市場の片隅や、地元のおばあちゃんが開いている小さな骨董店で、ふと目が合ってしまったような器。
そこには、その土地の暮らしの風景や、手仕事のリズムが滲んでいて、どうしても連れて帰りたくなってしまう。

一方で、フランスの〈Astier de Villatte(アスティエ・ド・ヴィラット)〉の器のように、完全に“趣味の世界”として集めているものもある。
高価で繊細だから、撮影での出番は少ないけれど、少しずつ少しずつ集めてきた私の密かな宝物たち。
暮らしの中でふと目に入るだけで、気持ちが上がる、そんな器たちも、私にとってはとても大事な存在。

フードコーディネーターが海外でスタイリング用に買い付ける器

 

器のスタイリングで伝えるフードコーディネーター

器を選ぶときに意識しているのは、その料理がどんなストーリーを持っているか、ということ。
季節、背景、食べる人のイメージ……ひとつひとつ思い浮かべながら、「どの器なら、その料理を語れるか」を考える。

たとえば、和風の煮物にあえて洋のアンティーク皿を合わせることもある。
それは意外性を狙っているわけではなくて、器が持つ“気配”が、その料理とどこかで呼応しているから。
料理と器、どちらが主でどちらが従ということではなくて、互いの空気を引き出し合う関係性がいいなと思っている。

余白が語ること。

私が器を見るときにいちばん気にするのは、「盛ったときの余白」かもしれない。
あるいは、器の縁取りや影の落ち方など、視線の流れを決めるような小さな要素たち。

器が主張しすぎると、料理が引っ込んでしまう。
かといって、何も語らない器だと、写真に写したときに“気配”が抜けてしまう。
その微妙な間合いを測る時間が、私はとても好きだ。

スタイリングの本質って、なんだろう。

器を選ぶという行為は、見た目を整えるためだけの作業じゃない。
私にとってそれは、料理の声に耳を澄ませること。
「どう見せたいか」ではなく、「この料理が持っているストーリーを、どう引き出せるか」。
その声に寄り添える器を選ぶことが、スタイリングの本質だと思っている。

スタイリングの完成は、料理と器がふっと馴染んだ瞬間にやってくる。
どちらかが主張するのではなく、互いが引き立て合って、ひとつの景色になるとき。
そこには、つくり手の想いや空気感までもが映し出される。

だから私は今日も、器棚の前で静かに立ち止まる。
器選びは、料理に向き合う“まなざし”を問われる時間だと思う。
この料理は、どんな背景を持ち、どんな言葉を語るのか。
その声に、どの器がいちばん優しく応えてくれるだろう。
ゆっくりと、でも確かに、選び取っていくそのひと手間こそが、
私にとってのスタイリングであり、表現そのものなのだと思う。

 

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フードコーディネーターって何するの?|「盛り付けだけじゃない」私の仕事の話
スタイリングという仕事の裏側や、食に向き合う姿勢について書いた別記事です。

 

福岡で料理撮影のスタイリングをするフードコーディネーター

 

福岡を拠点にフードコーディネーターとして、料理撮影やレシピ開発など全国対応しています。

広告・雑誌・Web媒体を中心に、撮影現場の盛り付けやスタイリングもお任せください。

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料理家・フードコーディネーター

眞弓由香Yuka Mayumi

「食卓の上の世界旅行」をテーマに世界各国の家庭料理のレッスンやパーティーの料理制作をはじめ、Web、広告を中心に料理とテーブル周りのスタイリング、レシピ考案、料理番組への出演等、幅広く活動中。