季節のてしごと帖|らっきょうを漬けた日

2025年6月4日 | エッセイ, 台所の風景

福岡を拠点に料理教室を主宰する、旅する料理家・フードコーディネーター。

このエッセイでは、そんな私の日常と旅の記録を綴っています。
広告や雑誌の撮影現場、料理教室、旅先での食体験——

そのすべてが、私の礎となっています。

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福岡のフードコーディネーターの手仕事 らっきょうの漬け方

 

らっきょうの漬け方 季節の手仕事

スーパーの野菜売り場で、泥つきのらっきょうを見つけた。
「ああ、もうそんな季節か」と一度は通り過ぎたけれど、少し戻って、ひと袋をかごに入れる。
なんとなく、そんな気分だった。

ここ数年、季節の手仕事からは離れていた。
らっきょうも、梅も、生姜も。
見かけるたびに「いいなあ」とは思うのに、気持ちがそこへ向かない年もある。

らっきょうの漬け方を学ぶ 料理研究家の手仕事

家に帰って、新聞紙を敷き、らっきょうの皮を剥く。
小さなボウルに水を張って、静かに、淡々と。
テレビも音楽もなく、ただ、包丁がシャリシャリとまな板を叩く音だけ。

手は動いているのに、頭の中は妙に静かだった。
考えごとをしているような、していないような。
「台所の瞑想」である。

母のやり方、わたしのやり方

私のらっきょう漬けは、亡き母がやっていたやり方。
とはいえ、母から料理を習ったことはなかった。
ただ、台所で動く背中をぼんやり眺めていて、味だけは、ちゃんと覚えていたんだと思う。
見よう見まねと、舌の記憶だけがたより。

まず塩をまぶして、1時間ほど置く。
そのあと、熱湯に10秒ほどくぐらせる。
この“ひとくぐり”が、侮れない。
たった10秒のことなのに、仕上がりのなじみ方が、ちょっと違ってくる。

らっきょうの漬け方を学ぶ初夏の手仕事日記

私は、どちらかといえばロジカル派で、料理も理屈で組み立てるタイプ。
火加減の理由、調味料のバランス、再現性——
どれも頭の中で整理しながら進めるのが好きだ。

けれど、こういう季節の手仕事になると、少し違ってくる。
「なんとなく、こっちのほうが落ち着くから」
「この順番のほうが、気持ちいいから」
理由というより、記憶とか、手の感覚とか、気分で選んでいる。

それでもちゃんと、おいしくなる。
説明がつかなくても、手が覚えていることって、あるんだなと思う。

静かに、らっきょうは瓶のなかへ

らっきょうを漬けたからといって、生活が劇的に変わるわけではない。
瓶の中で、甘酢にひたる白い粒を見つめる。
こんなに手間をかけたのに、派手さはゼロ。

でも、悪くない。むしろ、けっこう好きかもしれない。

来年もまたやるかどうかは、わからない。
でもきっと、気が向いたら。
無理に季節に合わせなくても、
また、手が自然に動き出す日が来る。

 

福岡の料理研究家が教えるらっきょうの漬け方、季節の手仕事

プロフィール画像
料理家・フードコーディネーター

眞弓由香Yuka Mayumi

「食卓の上の世界旅行」をテーマに世界各国の家庭料理のレッスンやパーティーの料理制作をはじめ、Web、広告を中心に料理とテーブル周りのスタイリング、レシピ考案、料理番組への出演等、幅広く活動中。